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ウェブ連載「日本人の流儀」

松本栄文

私にとって日本という国の原点は、“土”なんですね。弥生時代以降、狩猟民族から農耕民族に変わっていく過程で、日本人は稲作を通して“役割分担”という仕組みを作り出しました。稲を撒く人、稲刈りをする人、田を管理する人、お米を保存する人、そういった役割を持った人々が集まって集落が出来上がり、やがて村になっていったんですね。村社会は、みんなが協調し合っていかないと生きていけません。“和”を大切にする民族が、日本人なのです。その上、日本人は人間同士の“和”だけではなく、自然界との“和”も含めて、共存、共生に対する独自の美徳感、道徳観を育んできました。

そして、日本人の特性のひとつに、団結力があります。団結力は和の力の集合体ですよね。縄文時代、弥生時代から今日に至るまで、農業を主体としてきた村社会の民族ゆえに、日本人には、団結力が備わっているのです。日本人は、危機が訪れると“団結力”を発揮しますが、そこには歴史的背景が起因しています。

ただ、“和”や“団結力”といった日本人の特性の源である“土”ですが、最近、日本人は、土を触る機会を失っていますね。特に都会の人たちは、日常生活の中で土を見ることさえ無いのではないでしょうか。土の存在を忘れるということは、当然、季節の変化を忘れることになります。日本語には、季節の変化から由来する言葉が多くあります。でも、私たちが季節の変化を感じ取れなければ、日本語の本当の意味も分からなくなってしまいます。ひいては、日本人特有の思いやりの心だったり、四季を映し出してきた数々の文化を失うことになりかねません。日本人は日本の文化を失い勝ちです。私は、そのことに危機感を抱いています。

昭和30年代以降、急激な経済成長を遂げた日本。しかし、同時に文化を犠牲にしてきました。文化の無い国は、いずれ滅びます。日本は、2673年の歴史を持つ単一王朝として、世界的にも稀有な存在として知られています。なぜ、2673年続いたのか、を日本人にはもっと知ってほしいのです。

一方、日本人が世界的に誇るもののひとつに技術力があります。その源泉を辿ると、日本人の職人的思考があります。職人文化は、藩制をひいていた江戸時代に生まれました。各藩は生きていくために、経済力を上げようと、武士の代わりに技術者や芸術家を仕官させたり、育成したのです。武士を多く抱えると幕府への叛意と捉えられかねませんから、武力ではなく経済力・技術力をもって他藩との差別化を図ったわけです。江戸幕府は鎖国していたので、約250年に渡って技術力、芸術力の切磋琢磨が行われ、職人文化が発達しました。これは島国ならではの特性だと思います。

私が“食”という業界の中で講演活動や執筆活動を行ってきた中でも、様々な発見がありました。数多くの料理、食材、そしてその産地や生産者の方々との知り合うなかで、私は長い年月を経て受け継がれてきた“知恵”や“工夫”の素晴らしさと出会いました。なぜそういったものが現在まで残ってきたかというと、何十年に渡ってでも技術・文化を育んでいこうという継承の意識があるからです。その継承の心は、並大抵ではない忍耐力があるから生まれるものであり、その忍耐力も日本人らしいの特性だと思います。

私が今回の対談でお話ししたい方は、そういった日本人らしさを強烈に持っている人たちです。まさに日本人の流儀というものを持っている方々。流儀というのは、受け継がれてきた個人の考え方、個人の思想のことです。ですので、日本人の流儀には、必ず美徳感があると思っています。アート関係の方たちだけではなく、農業をやっている方、水産業、畜産業の方々、もちろん陶芸家、画家の方たちにも会っていくつもりです。そういう方々お一人お一人からお話を聞いていくと、絶対つながりが見えてくるはずです。それらをまとめていくと、最終的に「日本人の美意識」として形づくられていくのではないか、と密かに期待しているんですね。「日本人の美意識」を伝えることで、私は日本人に日本を誇りに思えるきっかけをづくりをしたいと思っています。

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